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「A型事業所をすぐ辞めると言い出した」「家族としてどうしたらいいかわからない」——そんな電話やLINEが突然届いたとき、戸惑うのは当然です。止めるべきか、背中を押すべきか、まず話を聞くべきか。家族だからこそ、正解が見えにくい場面です。
この記事では、A型事業所をすぐ辞めると言ってきた家族を持つ支援者の立場に向けて、状況別の判断軸と具体的な言葉かけの例を整理します。「辞めること=失敗」ではないケースも多く、逆に「辞めないほうが危険」なケースもあります。まずは一緒に確認してみましょう。
ご相談
※よくいただくご相談をもとに再構成した例です。実在の人物・体験談ではありません。
精神障害のある20代の子どもが、就労継続支援A型の事業所に通い始めて2週間で「もう辞めたい」と言ってきました。せっかく見つけた場所なのに、すぐ辞めさせていいものか迷っています。「また続かなかった」と自信をなくさせたくないし、かといって無理に続けさせて悪化するのも怖い。事業所に相談していいのかもわからず、家族として何をすべきか途方に暮れています。
まず結論
「辞めていいかどうか」は、理由と状況によります。すぐに答えを出す必要はありません。
家族がまず取り組むべきことは、「本人が辞めたい理由を整理する手伝い」と「事業所・支援機関への相談」の2つです。A型事業所をすぐ辞めると言ってきた場合でも、その背景には「慣れの問題」「合わない環境」「体調悪化のサイン」「事業所側の問題」など、まったく異なる原因があります。原因が違えば、家族として取るべき行動も変わります。
本人を責めず、かつ「なんとかなるから大丈夫」と安易に流さない——その両方のバランスが、家族には求められます。
状況別の考え方
ケース1: 「慣れるまで時間がかかっているだけ」かもしれないとき
新しい環境への適応には、誰でも時間がかかります。特に感覚過敏や対人緊張がある場合、最初の数週間は「つらい」と感じることが多く、A型事業所をすぐ辞めたいと感じるのも珍しくありません。
このケースで家族が確認したいのは、以下の点です。
- 「何が一番つらいか」を本人が言葉にできているか
- 1週間前・2週間前と比べて、少しでも「慣れてきた」感覚があるか
- 事業所のスタッフと話せているか、支援員の顔がわかってきたか
もし「最初はつらかったけど、少しずつ慣れてきた感じもある」という言葉が出るなら、もう少し様子を見ることを一緒に話し合う余地があります。
言葉かけの例(参考): 「2週間、本当によく頑張ったね。何がいちばんしんどかったか、もう少し教えてもらえる?」
ただし、「もう少し頑張れ」を繰り返すだけでは逆効果になりかねません。本人の言葉に耳を傾けることが先決です。
ケース2: 「体調・精神状態が明らかに悪化している」サインがあるとき
A型事業所は、一般企業等で働くことが難しい方が、事業所と雇用契約を結び、必要な支援を受けながら働く障害福祉サービスです。雇用契約を結んだ利用者には労働関係法令が適用され、原則として最低賃金以上の賃金が支払われます。
出典:厚生労働省「障害福祉サービスの内容」
A型では支援を受けながら働くことができますが、雇用契約に基づいて勤務するため、仕事内容や勤務時間、本人の体調などによっては負担が大きくなることもあります。
次のような体調の変化が続いている場合は、無理に働き続けるか、すぐに辞めるかを一人で決めるのではなく、まず主治医や事業所の支援員、相談支援専門員などに相談し、必要に応じて受診することを検討しましょう。
- 眠れない・食べられない日が続いている
- 通所前後に激しく落ち込む、泣く、怒るなど感情の波が大きい
- 「消えてしまいたい」「もう何もしたくない」などの言葉が出ている
このような状態のとき、家族から事業所に「体調が心配なので、主治医への相談を経てから通所を再開したい」と連絡することは適切な対応です。事業所側も、利用者の体調管理は重要な支援の一部として捉えています。
言葉かけの例(参考): 「最近、眠れてる? 体がしんどいなら、先生に相談してから考えようか」
医学的な判断は必ず主治医や専門機関に委ねてください。家族が「これは病状か、性格か」を判断しようとする必要はありません。
ケース3: 「事業所の環境や対応に問題がありそう」なとき
残念ながら、すべての事業所が利用者に適切な支援を提供しているわけではありません。A型事業所をすぐ辞めると言ってきた家族の話をよく聞くと、事業所側の対応に疑問が生じることもあります。
以下のような状況が続いているなら、第三者機関への相談を検討してください。
- 支援員から繰り返し強い言葉でプレッシャーをかけられている
- 体調や障害特性について「わがまま」と扱われている
- 作業内容や賃金について、契約時の説明と実態が異なる
- 欠勤・遅刻に対して不当な扱いを受けている
このような場合、無理に通所を続けさせることは本人の利益になりません。事業所に直接クレームを入れる前に、相談窓口や基幹相談支援センターに状況を話してみることをお勧めします(後述の相談先を参照してください)。
言葉かけの例(参考): 「それは、あなたが悪いんじゃないよ。一度、外の人に話を聞いてもらいましょうか」
ケース4: 「本人の意思として、合わないと明確に感じている」とき
A型・B型の就労支援は、本人にとって「通い続けることが目的」ではなく、「自分に合った働き方・生活を築くためのステップ」です。利用開始から間もなくても、「この場所は自分には合わない」という感覚が明確な場合、それは本人の大切な自己理解です。
「また続かなかった」「また失敗した」と思わせるより、「自分に合わない場所を見極めた」という経験として受け止める視点が、長期的には本人の就労力を育てます。
このケースで家族に確認してほしいのは、「次にどうしたいか」を一緒に考える余裕があるかどうかです。退所後の手続きや次のステップについては、担当の相談支援専門員や就労移行支援の支援員に相談しながら進めると安心です。
- 別のA型・B型事業所に体験利用してみる
- いったん休養期間を設けて、就労移行支援に切り替えを検討する
- 主治医・支援員と「今の体力・状態で合う場」を再整理する
言葉かけの例(参考): 「合わないってわかったことは、大事なことだよ。次は何が合いそうか、一緒に考えてみようか」
一人で抱えないための相談先
A型事業所をすぐ辞めると言ってきた場合、家族だけで抱え込まないことが重要です。以下の窓口が相談先として活用できます。
- 事業所の相談支援員・サービス管理責任者: まず事業所内で話を聞いてもらう。「家族として心配なことを伝えたい」と電話でも可。
- 相談支援専門員:障害福祉サービスの利用にあたり、本人の希望や生活状況を踏まえて「サービス等利用計画」を作成し、関係する事業所等との連絡調整や、利用開始後のモニタリング・計画の見直しなどを行う専門職です。
出典:厚生労働省「障害のある人に対する相談支援について」
担当の相談支援専門員がいる場合は、現在の状況や困りごとを共有し、今後利用できる支援やサービスについて一緒に整理することができます。 - 基幹相談支援センター: 市区町村が設置する総合相談窓口。担当の相談支援専門員がいない場合もここで相談できます。
- 障害者就業・生活支援センター(なかぽつ): 就労と生活の両面から支援を行う窓口。家族からの相談も受け付けています。
- 主治医・医療機関: 体調の悪化が疑われる場合は、事業所への相談より先に受診を。
現場からのひとこと
就労支援の現場では、「利用開始から1〜2か月以内に退所したい」という相談は決して少なくありません。その理由を丁寧に聞いていくと、「環境への慣れ」「他の利用者との関係」「作業内容のミスマッチ」「家族への遠慮(心配させたくない)」など、さまざまな背景が見えてきます。
家族として特に注意していただきたいのは、「本人が言いにくくて我慢している理由」です。支援員に遠慮していること、家族を心配させまいとしていること、「また辞めた」と思われたくないことで、本当のしんどさが見えにくくなることがあります。家族から事業所に「最近様子が気になっている」と一言伝えてもらうだけで、支援員が気に留めて声をかけやすくなります。情報を共有してもらえると、私たち支援員も動きやすくなります。
まとめ
A型事業所をすぐ辞めると言ってきた家族の対応を、場面別に整理しました。
- 慣れの問題なら: 何がしんどいかを聞き、もう少し様子を見ることを一緒に話し合う
- 体調・精神状態の悪化なら: 通所より受診・相談を優先する
- 事業所の環境や対応に問題がありそうなら: 基幹相談支援センターなど第三者窓口に相談する
- 本人の明確な意思として合わないなら: 次のステップを一緒に考えるプロセスに移行する
「辞めること=失敗」ではありません。同時に、「つらさをきちんと確認せず流すこと」も本人のためにはなりません。まず話を聞き、次に専門家に相談する——この順番を、家族として守っていただければと思います。あなた一人で抱え込まないことが、本人にとっても一番の支えになります。
「読んだだけでは判断がつかない」というときは、人に相談するのが早道です。
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この記事の監修者
監修:雨宮久美子
サービス管理責任者
就労継続支援A型・就労移行支援
多機能型事業所「はたらく森」
就労継続支援A型・就労移行支援の多機能型事業所「はたらく森」にて、障害のある方の就労支援に従事。現場での支援経験をもとに、記事内容の正確性を確認しています。


