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「発達障害の診断は受けたけど、障害者手帳を取るべきか迷っている」「手帳を取ると就職や生活にどんな影響があるの?」――そんな疑問を抱えていませんか?
ADHD・ASDなど発達障害のある人が障害者手帳のメリット・デメリットを調べるとき、制度の説明だけでなく「実際の就労にどう影響するか」まで知りたいはずです。この記事では、精神障害者保健福祉手帳の概要から、手帳を取ることで変わること・変わらないこと、就労との関係まで、支援現場の視点を交えて整理します。
結論・要点まとめ
まず結論から整理します。
- 発達障害のある人が取得できるのは主に精神障害者保健福祉手帳で、等級によって受けられるサービスが異なります。
- 手帳取得の最大のメリットは、障害者雇用枠での就活・各種割引・就労支援サービスの利用が可能になること。一方で「情報が職場に知られる可能性」を不安に感じる人も多くいます。
- 手帳の有無だけで就労の成否は決まりません。自分の状況に合わせた「開示・非開示の選択」とセットで考えることが大切です。
発達障害で取得できる「精神障害者保健福祉手帳」とは
障害者手帳には身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳の3種類があります。発達障害(ADHD・ASD・LDなど)のある人が対象となるのは、主に精神障害者保健福祉手帳です。
取得の条件
精神障害者保健福祉手帳を医師の診断書によって申請する場合は、手帳の交付を求める精神障害(発達障害を含む)について、初めて医師の診療を受けた日(初診日)から6か月以上経過した時点の診断書が必要です。診断書は、精神障害の診断または治療に従事する医師に作成してもらい、申請書などの必要書類とあわせて市区町村の窓口を通じて申請します。なお、精神障害を理由とする障害年金を受給している場合などは、診断書ではなく年金証書等を用いて申請できる場合があります。
出典:厚生労働省「精神障害者保健福祉手帳制度実施要領」
等級と有効期限
精神障害者保健福祉手帳の等級は、障害の程度に応じて1級・2級・3級の3段階に分かれており、精神疾患の状態と日常生活・社会生活上の能力障害の状態を総合的に判断して決定されます。また、手帳の有効期限は2年間で、引き続き利用する場合は更新手続きが必要です。医師の診断書で更新申請する方法のほか、精神障害を理由とする障害年金を受給している場合などは、年金証書等を用いて申請できる場合もあります。
出典:厚生労働省「障害者手帳について」
知的障害を伴う場合は療育手帳も検討を
知的障害を伴う発達障害の場合は、療育手帳(名称や判定基準は都道府県により異なる)の取得を検討できる場合もあります。両方の手帳を取得しているケースもあるため、主治医や相談支援専門員に相談してみましょう。
発達障害の人が障害者手帳を取得するメリット

発達障害のある人にとって、障害者手帳のメリットは大きくわけて「就労面」「生活面」の2軸で考えるとわかりやすいです。
就労面のメリット
- 障害者雇用枠での応募が可能になる
手帳を持っていると、企業の障害者雇用枠(法定雇用率に基づく採用)に応募できます。障害への配慮(業務の切り出し・通院への理解など)が得やすく、定着しやすい環境を選べる可能性が高まります。 - 就労移行支援・就労継続支援A型などを利用できる
就労移行支援・就労継続支援A型・B型などの障害福祉サービスを利用するには、原則として市区町村に申請し、サービスの支給決定を受ける必要があります。障害者手帳はすべてのケースで必須というわけではなく、障害の種類や状況によっては、医師の診断書などで対象者であることを確認し、利用できる場合があります。利用できるサービスや必要な書類は個々の状況によって異なるため、市区町村の障害福祉窓口や相談支援事業所に確認してください。
出典:厚生労働省「障害福祉サービスの内容」 - ハローワークの専門援助部門・障害者就業・生活支援センターを活用しやすい
手帳を持っていると、障害者専門の就労支援機関とよりスムーズに連携できます。
生活面のメリット
- 税制上の優遇: 精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている人は、所得税・住民税の障害者控除の対象となります。精神障害者保健福祉手帳1級の場合は「特別障害者」として、より大きな控除を受けられます。
出典:国税庁「障害者控除」 - 公共交通機関・施設の割引: 鉄道・バス・タクシーなどの割引、美術館・博物館などの入館料減免が受けられる場合があります(割引内容は事業者・自治体によって異なります)。
- 携帯電話料金の割引: 主要キャリアが独自の割引制度を設けています(内容・条件は各社による)。
- 自動車税・自動車取得税の減免: 自治体によって条件が異なりますが、対象となる場合があります。
- 自己理解・支援者との連携に役立つ: 手帳取得のプロセス自体が、主治医・支援者と「自分の状態」を丁寧に言語化する機会になります。
発達障害の人が障害者手帳を取得するデメリット・注意点

障害者手帳のデメリット・注意点も正直にお伝えします。取得をためらう理由として多く挙がる点を整理しました。
「障害者」として記録が残ることへの不安
精神障害者保健福祉手帳を取得すると、自治体では手帳の申請・交付に必要な情報が管理されます。「一度取得したらずっと手帳を持ち続けなければならないの?」と不安に感じる人もいるかもしれませんが、精神障害の状態が手帳の交付基準に該当しなくなった場合は、手帳を返還することとされています。また、自治体によっては、手帳が不要になった場合の返還手続きも案内されています。さらに、精神障害者保健福祉手帳の有効期限は2年間で、継続して利用する場合は更新手続きが必要です。更新しなければ、有効期限を過ぎた手帳は有効な手帳として使用できなくなります。
なお、手帳を返還したり更新しなかったりした場合でも、過去の申請・交付に関する行政上の記録がすべて削除されるという意味ではありません。記録の取扱いについて気になる場合は、お住まいの自治体の担当窓口に確認してください。
職場への開示問題
手帳を取得したこと自体は、原則として職場に自動的に通知されることはありません。ただし、障害者雇用枠で就職する場合は、採用時に開示が前提となります。一方で一般雇用枠(クローズ就労)では、手帳の存在を自分から伝えない限り、雇用主に知られることはありません。開示・非開示の選択については、別途記事で詳しく解説しています。
障害者雇用枠の賃金水準に関する懸念
「障害者雇用枠は給与が低い」というイメージを持つ人もいますが、実際の賃金は職種・労働時間・雇用形態・企業などによって異なります。厚生労働省の「令和5年度障害者雇用実態調査」によると、民営事業所で雇用されている精神障害者の1か月の平均賃金は14万9千円です。週所定労働時間30時間以上の人では平均19万3千円となっており、労働時間によっても賃金水準には大きな差があります。なお、この調査は障害者雇用枠だけを対象としたものではないため、「障害者雇用枠では必ずこの賃金になる」という意味ではありません。手帳を取得したこと自体によって収入が下がるわけでもなく、実際の給与は応募する求人の労働条件によって決まります。
出典:厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査」
取得できない・更新できない場合もある
主治医が「現時点では診断書が書けない」と判断するケースや、症状が軽快して更新時に等級が下がる・失効するケースもあります。主治医とのコミュニケーションが重要です。
手帳の有無と障害者雇用の関係を整理する
「手帳を持っていないと障害者雇用枠には応募できない?」という疑問もよく聞かれます。
| 状況 | 障害者雇用枠 | 一般雇用枠 | 就労支援サービス |
|---|---|---|---|
| 手帳あり | 応募可能 | 応募可能(開示は任意) | 利用しやすい |
| 手帳なし・診断あり | 原則不可 | 応募可能 | 自治体判断で利用できる場合あり |
| 未診断 | 不可 | 応募可能 | 利用条件を満たさない場合が多い |
ADHDなどの発達障害がある場合、精神障害者保健福祉手帳を持っていなくても、主治医の意見書などによってハローワークの障害者向け専門支援を利用でき、一部の障害者専用求人に応募できる場合があります。ただし、求人によっては障害者手帳の所持を応募条件としている場合があります。また、障害者雇用率制度では、精神障害者については精神障害者保健福祉手帳の所持者が法定雇用率の算定対象となります。そのため、「ADHD 手帳なし 障害者雇用」と考える場合は、「手帳がなくても障害者向けの就職支援や一部求人を利用できる場合はあるが、法定雇用率上の精神障害者として算定されるには手帳が必要」と理解するのが適切です。
出典:厚生労働省「事業主の方へ」
また、就労移行支援などの障害福祉サービスについては、障害者手帳が必ずしも必要というわけではありません。手帳を持っていない場合でも、障害の種類や状況に応じて医師の診断書などにより対象者であることを確認し、市区町村から支給決定を受けて利用できる場合があります。詳しくは、市区町村の障害福祉窓口や相談支援事業所に確認してください。
現場からのひとこと

就労支援の現場では、「手帳を取るかどうか」で長く悩んでいる方によく出会います。多くの場合、悩みの本質は手帳そのものではなく「自分が障害者だと認めることへの葛藤」や「周囲にどう見られるか」という不安であることが少なくありません。支援者としては、手帳取得を「障害を受け入れること」と同一視せず、「今の自分に合った選択肢を増やすためのツール」として捉えることを一緒に考えるようにしています。
また、手帳を取得してから「やっぱり今は使わない」という選択をする方も実際にいます。取得=すぐに開示・障害者雇用枠への応募という流れが唯一の正解ではありません。「まず選択肢を持っておく」という使い方もあるため、主治医・支援者と相談しながら焦らず検討してみてください。
よくある質問
Q1. 発達障害の診断だけで障害者手帳は取得できますか?
発達障害の診断を受けているだけで、精神障害者保健福祉手帳が自動的に交付されるわけではありません。医師の診断書によって申請する場合は、手帳の交付を求める精神障害についての初診日から6か月以上経過している必要があります。また、手帳の等級は、精神疾患の状態や日常生活・社会生活への影響などを総合的に審査して決定されます。申請を検討している場合は、現在の症状や生活上の困りごとなども含めて主治医に相談し、市区町村の担当窓口で必要書類や手続きを確認してください。
出典:厚生労働省「精神障害者保健福祉手帳制度実施要領」
Q2. 手帳を取ると、勤め先の会社にバレますか?
手帳の取得情報が自動的に職場に通知されることはありません。一般雇用枠(クローズ就労)で働いている場合、自分から伝えない限り会社が把握することはありません。ただし、障害者雇用枠への応募・在籍の場合は開示が前提となります。
Q3. 手帳を取得したら、ずっと持ち続けなければなりませんか?
いいえ。精神障害者保健福祉手帳の有効期限は2年間で、引き続き手帳を利用する場合は更新手続きが必要です。更新しなければ、有効期限を過ぎた手帳は有効な手帳として使用できなくなります。また、精神障害の状態が手帳の交付基準に該当しなくなった場合は返還することとされており、自治体によっては手帳が不要になった場合の返還手続きも設けられています。更新を検討する際は、現在の症状や生活状況などについて主治医と相談し、必要に応じて市区町村の担当窓口にも確認するとよいでしょう。
出典:厚生労働省「精神障害者保健福祉手帳制度実施要領」
Q4. ADHD・ASDで手帳を取ると、どの等級になりますか?
等級は主治医の診断書をもとに都道府県が判定するため、一概には言えません。日常生活や就労への影響の程度によって異なります。「自分は何級になるか」については、主治医に相談するのが最も確実です。
Q5. 手帳なしで就労移行支援は使えますか?
はい、障害者手帳を持っていなくても利用できる場合があります。就労移行支援を利用するには、原則として市区町村へ申請し、障害福祉サービスの支給決定を受ける必要があります。障害者手帳はすべてのケースで必須というわけではなく、障害の種類や状況によっては、医師の診断書・意見書などによって対象者であることを確認し、利用できる場合があります。必要な書類や利用条件は個々の状況によって異なるため、まずはお住まいの市区町村の障害福祉窓口や相談支援事業所に確認してみましょう。
出典:厚生労働省「サービスの利用手続き」
まとめ|次にやること
発達障害(ADHD・ASD)のある人にとって、障害者手帳のメリット・デメリットを整理すると次のようになります。
- メリット: 障害者雇用枠への応募、就労支援サービスの利用、税制優遇・各種割引など
- デメリット・注意点: 職場への開示の問題、取得・更新の手続き負担、賃金水準への不安(ただし実態は企業によって異なる)
手帳は「取らなければいけないもの」でも「取ってはいけないもの」でもありません。今の自分に合った選択肢を増やすための一つのツールとして捉えてみてください。
次にやることとして、以下のステップを参考にしてみましょう。
- まず主治医に「手帳の取得について相談したい」と伝える
- 手帳取得後の「開示・非開示の選択」について情報を集める(関連記事: オープン就労・クローズ就労の違いと選び方)
- 就労移行支援・相談支援専門員など、専門家に相談する
一人で抱え込まず、主治医や支援者を活用しながら、自分のペースで考えていきましょう。
「読んだだけでは判断がつかない」というときは、人に相談するのが早道です。
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この記事の監修者
監修:雨宮久美子
サービス管理責任者
就労継続支援A型・就労移行支援
多機能型事業所「はたらく森」
就労継続支援A型・就労移行支援の多機能型事業所「はたらく森」にて、障害のある方の就労支援に従事。現場での支援経験をもとに、記事内容の正確性を確認しています。


